鉄筋継手の基礎講座
鉄筋継手の基礎講座
鉄筋は、形状・寸法が規格化された工場製品であり、定尺物(所定の長さの製品)として建設現場に搬入されます。従って、建設現場での加工や継手(長さを増すための2材の接合)が必要不可欠となります。鉄筋の性能は、母材(鉄筋自体)の品質に左右されますが、継手部分の性能も構造物の構造安全性に大きな影響を及ぼします。同じ継手でも作業条件などにより、その性能は大きく異なります。本講座では、この鉄筋継手を取り上げ、5編に分けてまとめました。
各章のボタンのリンク先は、建材試験センター公式SNS noteです。
1.鉄筋継手の種類と歴史について
鉄筋継手の種類とは
継手とは「木材や鉄材など建築物、工作物の部材における長さを増すための2材の接合をいう。」と記載されています。
鉄筋継手工法は、重ね継手・ガス圧接継手・溶接継手・機械式継手の4種類に大別されます。
Part1 鉄筋継手の種類と歴史(建材試験センター【公式】note)
2.ガス圧接継手
ガス圧接継手とは
ガス圧接継手とは、鉄筋の接合する端面同士を突き合せ、軸方向に圧縮力を加えながら、突合せ部分を酸素・アセチレン炎で加熱し、接合面を溶かすことなく赤熱状態にし、ふくらみを形成する継手のことです。この継手方法は、接合面を超えて鉄筋の原子が移動し、マクロ的には接合面が金属結合されて一体となることが大きな特徴です。
適切なガス圧接接合を実現するためには、適切な「加圧」・「加熱」・「圧接時間」の3条件が必要不可欠となります。
ガス圧接継手に要求される品質・性能と検査
ガス圧接継手に要求される品質・性能には、施工前に確認する品質・性能と実際の圧接部において確認する品質・性能があります。
JIS Z 3120:2014(鉄筋コンクリート用棒鋼ガス圧接継手の試験方法及び判定基準)では、圧接した試験片の引張性能と曲げ性能を規定しています。
また、(公社)日本鉄筋継手協会の「標準仕様書」では、ガス圧接継手の性能として引張強度が要求され、現場での実際の圧接部の品質・性能として外観が良好なことと内部欠陥がないことが要求され、SD490の場合には施工前の性能として強度の確認が要求されています。
(1)施工前試験
1)引張強さ
JIS Z 3120では、引張試験の判定基準として「すべての試験片の引張強さがJIS G 3112の規定に合格しなければならない。」と規定されています。
また、「標準仕様書」の中でもガス圧接継手の性能は「ガス圧接継手の引張強さは、鉄筋母材の引張強さの規格値を満足すること。」と記述され、鉄筋継手工事で施工される全てのガス圧接継手の要求性能は、鉄筋の引張強さの規格値以上の強度を有する必要があることがわかります。
2)曲げ性能
JIS Z 3120では、曲げ性能を「いずれの試験片も45°以下の曲げ角度で、圧接面が折損してはならない。」と規定されています。
ただし、ガス圧接継手の曲げ試験は圧接継手の曲げ性能を検証するための試験ではなく、引張試験の代替試験として位置付けられています。
(2)実際の圧接部の検査
1)外観検査
外観検査は、施工プロセスが正しく行われているかどうか判断するために行います。圧接した継手全てを目視により確認することが原則で、必要に応じてノギス・SYゲージ・その他の適切な器具を用います。検査は、圧接部のふくらみの直径及び長さ・圧接面のずれ・圧接部における鉄筋中心軸の偏心量・圧接部の折れ曲がり・片ふくらみ・過熱による垂れ下がり・へこみ・焼き割れ・その他有害と認められる欠陥を対象に行います。
2)超音波探傷検査
超音波探傷検査は、圧接部の強度に影響を及ぼす内部欠陥の検出を目的に行います。ガス圧接部の超音波探傷検査の方法は、JIS Z 3062(鉄筋コンクリート用異形棒鋼ガス圧接部の超音波探傷試験方法及び判定基準)によります。「標準仕様書」では抜取検査を原則とし、検査の数量は、同一作業班が同一日に施工した圧接箇所とし、その大きさは200箇所程度を1ロットとして、30箇所を抜き取り、その中の不合格が1箇所以下ならそのロットは合格、2箇所以上ならそのロットは不合格とし、不合格となったロットは、超音波探傷検査により全数検査を実施します。
Part2 ガス圧接継手(建材試験センター【公式】note)
3.溶接継手
溶接継手とは
溶接継手は、溶融溶接法によって接合された継手のことです。「融接」とは、溶融状態において材料に機械的圧力を加えずに行う接合方法の総称であり「溶融溶接」の略称です。
接合のメカニズムは以下のとおりです。
①金属材料を加熱すると結合力は少しずつ失われ、原子間の距離が長くなる。
②熱膨張の状態を超えて更に加熱すると原子同士の結合が失われ、原子が自由に動き回る液体の状態になる。
③接合しようとする2つの材料を溶融させることにより互いの原子が混じりあった状態になる。
④混じり合った相互の原子が引き合うため新たな結晶となって接合する。
溶接継手の主なものとしては、フレア溶接継手・突合せアーク溶接継手・突合せ抵抗溶接継手などがあります。
また、ワイヤメッシュ筋に使用される重ね抵抗溶接継手、鉄骨梁に鉄筋を接合する場合等に行われるアークスタッド溶接継手などがあります。
溶接継手の中で最も一般的な工法は、(公社)日本鉄筋継手協会が取扱い対象としている「突合せガスシールドアーク半自動溶接継手」(シールドガス方式)です。
この溶接継手は鉄骨の溶接技術を応用して鉄筋を接合する工法として開発されたものです。接合する鉄筋の端部に所定の間隔の隙間を設け、溶融金属を介して鉄筋を一体化する工法です。
溶接継手に要求される品質・性能と検査
検査は、告示第1463号に規定されている「構造耐力上支障のある欠陥がないものとする」ことを担保するとともに、継手の施工品質が設計で要求された性能を満足することを確認し保証する意味で重要な行為です。
溶接継手の検査には、溶接施工会社が工事管(監)理者に対して自主責任として行う自主検査と、工事管(監)理者が工事発注者に対して責任として行う受入検査があります。
受入検査では、溶接欠陥を検出するための検査としては、外観検査と超音波探傷検査があります。外観検査は、溶接部のアンダーカット・オーバーラップ・偏心・曲がり及び割れなどについて必要に応じてノギス、その他適当な計測器具を用いて行います。また、超音波探傷検査は日本産業規格JIS Z 3063(鉄筋コンクリート用異形棒鋼溶接部の超音波探傷試験方法及び判定基準)に基づき行います。
4.機械式継手
機械式継手とは
機械式継手とは、鉄筋を圧接装置や溶接装置などを使用し直接接合するのではなく、鋼管(カプラーやスリーブ)と異形鉄筋の節との噛み合いを利用して接合する工法の総称です。
機械式継手のメカニズムは、一方の鉄筋に生じた引張力を鉄筋の節から鋼管を介して他方の鉄筋に伝達させるというもので、引張力を確実に伝達させるためには、スリーブへの挿入長さの管理が必要となります。
また、引張力は鉄筋表面の節からせん断力として伝達されるため、噛み合わせる節の数の管理も重要となります。
異形鉄筋の節の間隔(ピッチ)は、製品の生産者によって異なるので、接合する鉄筋の形状に合わせた管理が必要です。
挿入長さ以外に、鉄筋を固定するため、グラウトなどの充填材を注入する工法もあり、それぞれの管理項目が定められています。
機械式継手は、応力伝達機構別・工法別に分類すると、①ねじ節鉄筋継手、②端部ねじ加工継手、③鋼管圧着継手、④充填式継手、⑤併用継手、⑥その他 の6種類に大別されます。
機械式継手の検査とは
「鉄筋継手工事標準仕様書 機械式継手工事(2017年)」の検査内容を紹介すると、機械式継手の試験・検査には、施工前試験・受入検査があり、各工法で定められた方法によって行われます。
施工前試験は、機械式継手工法及びすべての鉄筋の組み合わせごとに継手試験片を作製し、その試験片数は3本としています。
試験方法は、日本鉄筋継手協会規格JRJS 0011(A級機械式継手の試験方法及び判定基準)に基づいて引張試験を行います。
受入検査は、施工された継手部が必要十分な品質を有しているか否かを工事の発注側、なわち元請施工者が確認します。
その方法としては外観検査や、超音波によりスリーブやカプラーに挿入された鉄筋の挿入長さを測定する超音波測定検査があります。
超音波測定検査は、JIS Z 3064(鉄筋コンクリート用機械式継手の鉄筋挿入長さの超音波測定試験方法及び判定基準)に基づいて行います。
5.鉄筋継手工事の品質管理および検査
鉄筋継手工事における品質管理および検査とは
鉄筋継手に関する品質管理とは、鉄筋コンクリート工事において必要不可欠である鉄筋の継手(鉄筋継手工事)について、法令や発注者(工事施工者)が要求する性能を踏まえて、いかに合理的かつ経済的に鉄筋継手工事(鉄筋継手部の加工・施工)を行うかを管理する行為のことです。
鉄筋継手の検査とは、施工した鉄筋継手の品質が、法令や発注者等の要求性能を満足するか否かを検査会社が実施した検査結果(検査報告書)に基づいて、判断(合否判定)する行為のことです。
したがって、鉄筋継手に関する品質管理および検査は、鉄筋コンクリート構造物の構造安全性や耐久性等を確保するために極めて重要な事項となります。
鉄筋継手に関する品質管理および検査の方法は、各種仕様書や要領書などによって異なりますが、例として、公益社団法人日本鉄筋継手協会の仕様書があります。
鉄筋継手工事標準仕様書・ガス圧接継手工事(2017年)、同・溶接継手工事(2017年)、同・機械式継手工事(2017年)に品質管理や検査が定められています。
継手の施工計画とは
鉄筋の継手工事においては、通常、元請施工者が施工計画書を立案し、継手の施工会社が施工要領書を,鉄筋継手部の検査会社が検査要領書を作成します。
施工計画書および施工要領書の作成に際しては、設計図書および特記事項などの設計・監理者の要求事項および承認を必要とする事項を確認します。
継手協会では、施工計画書および施工要領書の作成と指導ができる「継手管理技士」の制度を1992年に確立し、「鉄筋継手管理技士」、「圧接継手管理技士」、「溶接継手管理技士」および「機械式継手管理技士」の4つの技士の認証をしています。これらの「継手管理技士」の有資格者が、実質的な鉄筋継手工事の品質管理責任者として重要な役割を担っています。
継手の施工
継手の施工は、継手の工法毎に認証された「技量資格者」が行うことが鉄筋継手工事特記仕様書などで要求されています。
ガス圧接技量者および鉄筋溶接技量者は継手協会が認証を行っており、機械式継手作業者は主に機械式継手メーカーが講習修了証を発行しています。
技量資格者は、建設工事現場毎に定められた施工要領書に従って、適切に継手施工を行うことが重要です。
自主管理
自主管理とは、品質管理の一環として、継手の施工会社が、施工した鉄筋継手の品質を確認・保証するために自主的に行う製品検査のことです。
製品検査の詳細(検査項目・方法・頻度等)は、鉄筋継手工法の種類・発注者の要求品質・性能等によって異なります。
なお、継手協会の仕様書では、優良圧接会社および優良A級継手溶接施工会社の認定条件として、外観検査は全数自主管理パトロールによる超音波探傷検査を行い、自主的に管理・実施することを要求しています。
受入検査
受入検査とは、建設工事現場に納入される鉄筋(所定の工法で継手された鉄筋)について、鉄筋の種類・径・寸法・継手工法・品質・数量等が発注どおりであるかを確認し、その鉄筋が受け入れ可能か否かを判断するために行う検査のことです。この受入検査は、一般的には元請施工者が行います。
受入検査は、原則として元請施工者が行いますが、鉄筋継手部の品質については、元請施工者の代理人として、検査会社の検査技術者が行います。
この検査技術者は、「鉄筋継手部検査技術者」として継手協会が認証しており、継手工法により資格種別が区分されています。
Part5 鉄筋継手工事の品質管理および検査(建材試験センター【公式】note)