雨と風の基礎講座
雨/風と建築/建材
日本では風と雨による災害や被害が頻繁に起こっており、また、世界的にも甚大な被害が発生した例が数多くあります。我が国では建築基準法の中で風に対する基準を規定しており、この建築基準法を基にして、各建材に要求される性能を日本産業規格(JIS)や日本建築学会の建築工事標準仕様書(JASS)に定めています。
当センターでは災害をもたらす原因である風・雨に対する建材の様々な性能試験を多数実施し、 JISやJASSに定めた性能を保持しているか確認や評価を行っています。こうした立場から風・雨にまつわる様々な性能やその試験方法などをまとめました。 各章のボタンのリンク先は、建材試験センター公式SNS noteです。
1.風と雨による災害について
藤田スケールとは
2012年5月6日に茨城県つくば市で発生した竜巻は大きな被害をもたらしました。
藤田スケールとは竜巻など水平方向の規模が小さい局所的な現象について、既存の風速計から風速値を求めることは困難であるため、1971年にシカゴ大学の藤田哲也博士が発生した風被害の状況から風速を大まかに推定する指標として作成されたもので、6段階に分類されています。2011年の茨城県つくば市で起こった竜巻による被害は過去最大規模であると言われており、その規模は藤田スケールF3またはF4レベルともいわれています。
2.外壁材に求められる耐風性能
壁材に求められる耐風性能とは
外壁材は屋外に面して設置されるため、風雨影響を受けやすい建材の1つです。外壁材をはじめ建物の部位に必要な耐風圧性能は、建築基準法の告示1454号と1458号を用いて計算することができます。
風圧力とは
建築基準法告示1458号では係数Er、平均速度q、ピーク風力係数Cfから風圧力W(必要な耐風圧力)について定められています。外壁材は屋外に面して設置されるため、風雨影響を受けやすい建材の1つです。外壁材をはじめ建物の部位に必要な耐風圧性能は、建築基準法の告示1454号と1458号を用いて計算することができます。
Part2 外壁材に求められる耐風圧性能(建材試験センター【公式】note)
3.建材に求められる水密性能(圧力箱法)
壁材に求められる耐風性能とは
圧力箱法は、送風機、散水装置、圧力制御装置等で構成される鋼製の箱状装置に試験体を設置し、風圧力を一定の周期で変動させながら水を噴霧し、試験体からの漏水を確認する試験方法です。JIS A 1414-3(建築用パネルの性能試験方法-第3部:温湿度・水分に対する試験)で試験条件が定められています。加圧ステップは計9ステップあり、散水量は1㎡あたり4L/min、圧力の載荷方法は脈動圧によって試験を行います。
この散水量1㎡あたり4L/minとは、JIS制定時1900年の気象データにおいて、10分間あたりの最大降水量40mm(1時間当たりに換算すると240mm)という記録があったため、この降水量を1分間および1㎡あたりに換算したところ4L/minになるので、この散水量が採用されたと言われています。
最近だと2020年6月6日に、熊谷で10分間あたりの最大降水量50mmが観測されています。
脈動圧とは
脈動圧は波形で圧力を変動させる載荷方法で、実際の風が「吹いて止んで」の強弱を繰り返すことを再現したものです。脈動周期2秒は、実際日本で吹く風を統計的に調べたところ、おおよそ2秒周期の風が多く観測されたことにより採用されたと言われています。最大中心圧力1600Paは、換算風速で約52m/sとなっており、気象庁が熱帯低気圧と台風とを区別する風速17m/sの約3倍にもなっています。このことからも、この試験条件がかなり厳しいものであることが分かります。
Part3 建材に求められる水密性能 その1.圧力箱法(建材試験センター【公式】note)
4.建材に求められる水密性能(送風散水方式)
送風散水方式とは、試験体へ送風機で所定の風速に設定した風を吹き付けながら散水を行う方法で、試験体室内側への漏水を定性的、定量的に確認する方法です。『外壁や建具』は,雨が室内に侵入するのを防ぐため、室内への漏水があってはいけません。このため、水密試験では試験体全面に圧力を加えた状態での散水という厳しい試験が要求されます。
換気ガラリや換気口といった『換気部材』でも、室内へ雨水が侵入してもよいことにはなりません。換気部材から室内への雨水の侵入を最小限に抑えるべく工夫が施されていますが、その水密性能を評価するための試験方法が、送風散水方式による試験方法です。
5.建材に要求される耐風性能と水密性能(耐風圧性試験:建具)
耐風圧性試験とは
耐風圧性試験とは、風に対する強度試験です。この耐風圧性試験に用いる試験の一つに、動風圧試験装置があります。この装置は実際の風によって生じる正圧と負圧を試験体に対し等分布かつ安定的に載荷ができる装置です。送風機とは異なり、変位・ひずみ等の測定が安定的に行えることおよび試験体全体に均等な圧力を加えることができることから、この装置による試験が一般的なJISとして規定されています。耐風圧性試験を行う対象としては、壁、屋根、建具が代表的なものです。
建具の耐風圧力性試験方法とは
代表的な建具としてサッシ、ドアセットがあり、それぞれの評価基準は、サッシはJIS A 4706、ドアセットはJIS A 4702に規定されています。
評価基準には耐風圧等級が定められていて、等級ごとに最高圧力が異なります。試験では対象となる建具に見合う等級を選択し、圧力を加え、試験体の観察、変位計を用いた当該部位の変位測定及び圧力載荷後の開閉の異常の有無を確認します。
サッシ
サッシには、引き違い、片引き、上げ下げ、内外倒しなどさまざまな開閉形式があります。引き違いサッシはその中でも代表的なもので、多くの建物に使用されています。この引き違いサッシでは、変位の測定を5ヵ所行い、測定で得られた値から、召合せかまちの変位およびたわみを算出することができます。
ドアセット
ドアセットの相対変位は、ドア枠と扉の相対距離をいいます。風圧力を受ける前の初期相対距離を基準とし、風圧力を受けて扉が移動した距離を相対変位として求めています。なお、評価基準は15mm以内で、ドアが閉まる方向のみが対象となります。
Part5 建材に要求される耐風性能と水密性能 耐風圧性試験方法について(1)(建材試験センター【公式】note)
6.建材に要求される耐風性能と水密性能(耐風圧性試験:外壁・屋根)
屋根材や壁材の安全性とは
屋根材や壁材には、耐風圧性・水密性・耐火性・断熱性・遮音性など、さまざまな性能が求められます。このうち耐風圧性は、建物の内部空間を安全かつ快適に維持するために必要な性能項目です。建築基準法施行令第39条第1項においても、「屋根葺き材、内装材、外装材、帳壁その他これらに類する建築物の部分及び広告塔、装飾塔その他建築物の屋外に取り付けるものは、風圧並びに地震その他の振動及び衝撃によって脱落しないようにしなければならない。」と規定され、屋根材および壁材の風圧に対する安全性の確保が求められています。
屋根材および壁材の耐風圧性試験方法とは
(1)折板屋根
折板屋根の耐風圧性試験方法は、鋼板製屋根構法標準(SSR2007) 第4章 折板屋根の試験・評価 4.4耐風圧性試験に規定されています。
1)静圧試験(安全確認試験)
圧力0から設計用風圧力まで段階的に試験体を吹き上げ方向へ加圧し、破壊・脱落がないことを確認する試験となります。
2)脈動圧試験
圧力0から設計用風圧力の範囲で脈動圧を加える試験となります。実際に生じる風の強弱を想定した試験といえます。
3)静圧試験(破壊試験)
圧力0から試験体が吹き上げ方向へ破壊するまで段階的に加圧し、破壊強度(終局耐力)を求める試験となります。
(2)折板以外の金属製屋根
金属製屋根材の試験について準じて行うことができますが、試験体の製作に工夫が必要となります。折板屋根以外の金属製屋根材は、葺き材・防水材・野地板・下地材(母屋材など)によって構成されることが一般的です。このような仕様の屋根材に対して、葺き材には圧力が直接作用しなくなるため、葺き材に直接圧力が加わるように、野地板に孔を設けるまたは野地板を設置しない試験体とすることが規定されています。
(3) 瓦屋根材
瓦屋根材は、瓦間のすき間が大きいので、そのままでは等分布の圧力を加えることが難しい建材です。瓦工業組合では、瓦1枚1枚をワイヤーで連結し、それを1か所に集めて、強度試験機で機械的に引っ張る試験を標準としています。しかし、下地材(母屋材および垂木)と瓦の間にビニルシートを設置するなどの作製を工夫することで、動風圧試験装置による試験を行うことも可能です。
(4)壁材
壁材の耐風圧性試験方法は、鋼板製外壁構法標準SSW2011 第2章 設計 2.5.6 鋼板製外壁全体を対象とした試験で規定されています。試験方法はSSR2007とほぼ同一ですが、試験対象が外壁となるため、動風圧試験装置は試験体を地面に対して垂直に設置できるタイプのものとなります。
Part6 建材に要求される耐風性能と水密性能 耐風圧性試験方法について(2)(建材試験センター【公式】note)
7.建材に要求される耐風性能と水密性能 (浸水防止性能を有する設備について)
浸水防止性能とは
「浸水防止性能」といわれる性能を持った扉、シャッターおよび止水板が開発され、さまざまな場所に設置され始めています。「浸水防止性能」とは近年都市部を中心に頻発している浸水災害において、建物内や地下空間への浸水を食い止め、被害の軽減を図る性能を指します。
扉やシャッターには、JIS A 4702(ドアセット)やJIS A 4705(重量シャッター)などに規定される日常の使用において必要な性能(強度、安全、快適性能等)が従来から要求されてきました。一方で、「浸水防止性能」は、突発的に起こる災害に対し備えるべき性能として、近年注目されるようになりました。
浸水防止性能試験とは
当センターでは、(一社)シャッター・ドア協会のご協力を得て、「浸水防止性能」を有する設備の試験方法の作成を行い、建材試験センター規格 JSTM K 6401(浸水防止用設備の浸水防止性能試験方法)として2016年に制定し、その後2019年にJIS化されました。
同試験方法では、試験対象(扉、シャッター、止水板)を水槽に取り付け、この水槽に水を供給、溜めることにより実際の浸水被害と同じ状況を再現しています。その時、試験体から漏水した水の重量を1分間計測し、1時間あたりの体積流量(㎥/h)に換算します。加えて、水圧を受けた試験体面積で除することにより㎥/(h・㎡)の単位を用いた結果を算出します。そのほか、試験体の変位を測定することにより、試験体の強度も確認します。
試験・認証・評価の詳細
動風圧に関する試験(中央試験所・環境グループ)
サッシ・建具のJ I S マーク認証
建築基準法第37条に該当する性能評価証
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